不動産仲介を電子契約で効率化する方法|流れやメリット・デメリットも解説
不動産取引における契約業務は、書類の準備や署名捺印、郵送など、多くの時間と手間を要するプロセスでした。しかし、2022年5月の宅地建物取引業法改正により、不動産仲介の電子契約が全面的に解禁され、DX化が進んでいます。
電子契約の導入により、契約業務の大幅な効率化やコスト削減が実現できますが、「何から始めればいいかわからない」「導入のメリットや注意点を知りたい」と感じている担当者の方も多いのではないでしょうか。
この記事では、不動産仲介における電子契約の基本、導入の流れ、メリット・デメリット、電子化できる書類の種類までわかりやすく解説します。
不動産仲介の電子契約はいつから始まった?
不動産仲介における電子契約は、2022年5月に施行された改正宅地建物取引業法によって本格的にスタートしました。
これまでも社会実験(特例措置)として一部では利用されていましたが、この法改正によって、重要事項説明書(35条書面)や契約書(37条書面)などを電子データで交付できると、正式に認められたのです。
この改正は、社会全体のDX推進やペーパーレス化の流れを受けたもので、契約手続きのオンライン完結を可能にしました。
電子契約の導入で書面様式・承認経路・保管方法の統一が進み、不動産取引のデジタル化と標準化が一気に進んでいます。
そもそも電子契約とは?
電子契約とは、これまで紙で行っていた契約書の作成・署名・保管を、すべてオンライン上で完結できる契約方法のことです。
電子署名法に基づき、電子署名やタイムスタンプの使用により、契約者本人の確認(本人性)とデータの改ざん防止(非改ざん性)が保証されます。
そのため、電子データでありながら紙の契約書と同じ法的効力を持つのが特徴です。不動産のような高額取引にも安心して利用できます。
不動産仲介で電子契約できる事項
宅建業法の改正により、これまで紙での交付が義務付けられていた多くの書類が電子化の対象となりました。
ここでは、具体的にどのような契約や書面が電子契約に対応できるのかを詳しく見ていきましょう。
不動産売買契約
不動産の売買契約は、電子契約の導入によって大きく効率化が進んでいます。売主と買主が直接会わなくても、オンライン上で契約書を作成・確認・署名し、遠隔地同士の取引でもスムーズに契約を完結できるからです。
<電子化可能な書類>
- 重要事項説明書(35条書面)
- 売買契約書(37条書面)
- 物件状況確認書
- その他、売買契約に付随する書類
売買媒介契約
不動産会社が売主や買主と結ぶ売買媒介契約も電子化できます。
オンライン上で重要事項説明(IT重説)を行えるようになったため、顧客は一度も店舗へ足を運ばずに契約まで進められます。
<電子化可能な書類>
- 媒介契約書(34条の2書面)
定期借地/借家契約
契約期間が定められている定期借地契約や定期借家契約も、電子契約の対象です。
契約の更新や終了に関する条件を電子データで明確に記録・保管できるため、後のトラブル防止にもつながります。書面のやり取りが不要になり、契約管理の負担も軽減されるでしょう。
<電子化可能な書類>
- 定期借地/借家契約書
賃貸借契約
賃貸物件の契約手続きも、電子化によって大きく変わります。
入居希望者は、来店せずにオンラインで重要事項説明を受け、契約を締結できます。進学・転勤で遠方から物件を探している学生や法人契約者もスムーズに対応可能です。
<電子化可能な書類>
- 賃貸借契約書
- 重要事項説明書(35条書面)
- 契約締結後書面(37条書面)
- 連帯保証契約書
- 駐車場使用契約書
更新契約
賃貸物件の更新手続きも電子化が可能です。更新時期が近づいた入居者に対し、システムから自動で通知を送り、オンラインで更新契約を締結できます。書類の郵送や押印といった煩雑な作業がなくなり、更新漏れのリスクも低減できるでしょう。
<電子化可能な書類>
- 更新契約書
- 更新手続きに関する書類
管理委託契約
物件オーナーと不動産管理会社が結ぶ管理委託契約も電子化できます。
契約内容や履歴をクラウド上で一元管理できるため、過去の契約内容の確認が容易になるでしょう。メンテナンスや清掃など、建物管理に関連する契約も同様に電子化可能です。オーナーとの円滑なコミュニケーションを促進します。
<電子化可能な書類>
- 管理委託契約書
- メンテナンス契約書
- 清掃契約書
- 建物の維持管理に必要な契約書
雇用契約
不動産会社が従業員を雇用する際の雇用契約も電子化の対象です。労働条件通知書などを電子データで交付することで、ペーパーレス化を推進します。書類の保管コストや管理の手間を削減できるでしょう。
<電子化可能な書類>
- 雇用契約書
- 労働条件通知書
業務委託契約
営業代行会社や広告代理店など、外部のパートナー企業と結ぶ業務委託契約もオンラインで完結できます。
契約内容の合意から署名までがスピーディーに進むため、ビジネスチャンスを逃しません。秘密保持契約書(NDA)なども同時に締結可能です。
<電子化可能な書類>
- 業務委託契約書
- 秘密保持契約書
工事請負契約
物件のリフォームや修繕、設備工事などに関する請負契約も電子化できます。
見積書から契約書までをデータで一元管理することで、工事の進捗管理やコスト管理が効率化されます。オーナーへの報告もスムーズに行えるでしょう。
<電子化可能な書類>
- 請負契約書
- 見積書
不動産仲介で電子契約できない書類
不動産仲介では電子契約の導入が進んでいますが、すべての書類を電子化できるわけではありません。一部の契約や書類は「紙の書面で作成すること」が法律で義務付けられており、電子契約の対象外となります。
ここでは、不動産取引の現場で電子契約が使えない主な書類とその理由を解説します。
事業用定期借地契約
借地借家法第23条では、事業用定期借地契約は公正証書で締結しなければならないと定められています。
公正証書は公証人が作成する公的な文書です。現状では電子化に対応しておらず、書面での手続きが必要となります。
参照: e-Gov法令検索「借地借家法」
企業担保権の設定または変更を目的とする契約
企業担保法第3条では「企業担保権の設定や変更を目的とする契約は、公正証書で行わなければならない」と定められています。そのため、公正証書による書面での締結が必須です。
企業担保法とは、会社などの事業者が自社の事業に関わる複数の資産をまとめて担保にできる法律を指します。
通常、担保は土地や機械などの財産ごとに個別設定しなければなりません。しかし企業担保法では、不動産・設備・在庫など事業に必要な財産を「企業財産」として一括で担保に設定できるのが特徴です。
参照: e-Gov法令検索「企業担保法」
任意後見契約書
任意後見契約は、本人の判断能力が低下した際に備えて、代理人(任意後見人)を定めておく契約です。公証人の立ち会いのもとで公正証書として作成する必要があり、電子契約は利用できません。
印鑑証明書
印鑑証明書は、不動産登記や金融機関とのローン契約といった重要な手続きで原本の提出が求められる書類です。電子データによる代替は認められておらず、紙の証明書を提出する必要があります。
不動産仲介で電子契約を締結する流れ
不動産仲介における電子契約は、単にシステムを導入するだけでは完了しません。
スムーズで安全に運用するためには、導入前の準備から契約後の保管まで、一連の流れに対する正しい理解が大切です。
ここでは、不動産仲介で電子契約を締結する際の具体的なステップを解説します。
- 契約前準備(システム導入・電子署名の取得)
- 電子契約書の作成・送信
- 契約相手の署名・確認
- 電子契約の締結
- 契約締結後の保管と管理(クラウド保管・バックアップ)
1. 契約前準備(システム導入・電子署名の取得)
まずは、不動産仲介業務に適したクラウド型の電子契約サービスを選定・導入します。導入時には社内ルールを明確にし、誰がどの範囲の権限を持つのかを定めたうえで、アカウントを設定しましょう。
セキュリティ方針や契約データの保存方法など、情報管理に関するルールを事前に社内で統一しておくことが、安全で効率的な電子契約運用の鍵となります。
電子署名の仕組みには、大きく分けて「当事者署名型」と「事業者署名型(立会人型)」の2種類があります。
- 当事者署名型:契約当事者それぞれが自ら電子証明書(署名鍵)を取得・管理して署名する方式
- 事業者署名型(立会人型):クラウド事業者が提供する署名鍵を利用して署名を行う仕組み。メールアドレスとアカウントを準備するだけで簡単に電子契約を開始できます。
多くの不動産仲介・賃貸取引では、事業者署名型(立会人型)が採用されています。この場合は、利用者自身が電子署名を取得していなくても、安心して電子契約を締結可能です。
2. 電子契約書の作成・送信
契約書の作成手順は、従来の紙の契約と大きくは変わりません。契約内容や日付、当事者名などを入力して電子契約書を作成します。
多くの電子契約サービスにはテンプレート機能が備わっています。これらの活用により入力ミスを防ぎ、作成時間を大幅に短縮できるでしょう。契約書が完成したら、システムを通じて相手のメールアドレスなどに通知を送り、契約内容の確認を依頼します。
3. 契約相手の署名・確認
契約書を受け取った相手はオンライン上で内容を確認し、問題がなければ電子署名を行います。
この際、本人確認のためにワンタイムパスワードなどが利用されることもあります。対面での署名や押印が不要になるため、契約手続きのスピードが大幅に向上するでしょう。
もし内容に不備があった場合も、システム上で即座に修正し再送信できるため、手戻りの時間を最小限に抑えられます。
4. 電子契約の締結
契約に関わるすべての署名が完了すると、電子契約システムが自動的に契約成立を記録し、法的に有効な契約が成立します。
同時に、契約当事者全員に署名完了の通知が送られます。契約データには改ざん防止のためのタイムスタンプが付与され、後から内容を確認したり、証拠として活用したりすることも可能です。
5. 契約締結後の保管と管理(クラウド保管・バックアップ)
締結された電子契約書は、クラウド上の安全なサーバーに自動保存されます。
必要なときにすぐ検索・閲覧・共有ができるため、書類管理にかかる手間を大幅に削減できるでしょう。さらに、電子契約の履歴や証跡データを活用すれば、監査対応やトラブル時の確認もスムーズに行えます。
契約書の保存期間は、税務・会社法・宅建業法などのルールに従い、書類の種類ごとに異なります(税務関係書類は原則7年など)。クラウドで一元管理すれば、保存期間内の紛失や劣化の心配がありません。
また、アクセス制限を設定して閲覧権限を細かく管理すると、不正な持ち出しや情報漏えいを防ぎ、セキュリティ体制を強化できます。
不動産仲介で電子契約を利用するメリット
不動産仲介で電子契約を取り入れることで、どのような効果が期待できるでしょうか?ここでは代表的な4つのメリットを解説します。
契約スピードの向上
電子契約を導入するメリットの一つが、契約スピードの向上です。
紙の契約書で必要だった印刷・製本・郵送・押印といった一連の作業が不要になり、最短で即日中に契約を完了させることも可能です。
顧客とのスケジュール調整もオンラインで完結するため、時間的なロスを大幅に削減します。取引件数の多い不動産仲介業では、業務効率化は売上アップに直結するものです。スピーディーな対応は、顧客満足度の向上にも大きく貢献するでしょう。
コストの削減
コスト削減効果も電子契約の大きな魅力です。
紙の契約書で必要だった印紙税が電子契約では不要になり、契約金額によっては1件あたり数千円〜数万円のコスト削減につながります。さらに、紙代・印刷代・郵送費・書類の保管スペースといったコストもゼロに。年間経費を大幅に圧縮可能です。
クラウド管理によって書類の紛失や再印刷も減り、業務の生産性は大きく向上します。
ペーパーレス化による環境配慮という観点からも、企業価値を高めることにつながるでしょう。
場所や時間を選ばず契約が可能
電子契約なら、PCやスマートフォン、タブレットがあれば、24時間365日どこからでも契約手続きを行えます。
出張中の担当者や遠方の顧客ともスムーズに契約でき、来店不要で手続きが完結できるのがメリットです。
これにより顧客の利便性が飛躍的に向上し、海外在住の顧客や多忙な法人契約にも柔軟に対応できます。また、不動産仲介業における働き方改革やリモートワーク推進にも役立つでしょう。
書類管理の効率化とセキュリティ強化
電子契約では、締結済みの契約書をクラウド上で一元管理できます。契約日や顧客名などで簡単に検索・閲覧ができ、管理の効率が大幅に向上するでしょう。
アクセス権限を細かく設定することで、役職や部署に応じて閲覧できる情報を制限し、内部からの情報漏えいを防止できます。また、電子署名とタイムスタンプにより契約の非改ざん性が担保され、法的証拠力も高く、コンプライアンス強化につながります。
契約履歴や操作ログも残るため、監査や内部統制にも対応しやすいのもメリットです。
不動産仲介で電子契約を利用するデメリット
電子契約には多くのメリットがある一方で、いくつか注意すべき課題もあります。
ここでは、導入前に理解しておきたい主なデメリットと、その解決策について解説します。
利用者のITリテラシー問題
電子契約導入の課題の一つが、契約当事者や顧客のITリテラシーです。特に、高齢者やIT機器の操作に不慣れな顧客は、電子署名の方法とシステムの操作に戸惑うことがあります。
そのため、導入時には操作マニュアルの整備や、電話・オンラインによるサポート体制の構築が欠かせません。
また、社内スタッフに対しても研修を行い、誰もがスムーズに対応できるよう準備しておく必要があります。
ITに不慣れな顧客向けには、引き続き紙の契約書を併用するなど、柔軟な対応が求められるでしょう。
導入コスト・運用コスト
電子契約サービスの導入には、初期費用や月額利用料といったコストが発生します。料金体系は、定額制や契約件数に応じた従量課金制など、サービスによってさまざまです。
また、既存の顧客管理システム(CRM)などと連携させる場合は、追加の開発費用がかかることも。
初期設定や社内研修に時間と費用を要するケースもあるため、導入効果を最大化するには、運用ルールを明確にし、継続的に改善していくことが重要です。
導入を検討する際は、これらのコストと、印紙税や郵送費の削減、業務効率化による人件費削減などのメリットを比較し、費用対効果の慎重な見極めが求められます。
電子署名や本人確認の手間
不動産仲介で電子契約を行う際は、契約当事者の本人確認や電子署名の設定が必要になるケースがあります。ただし、利用するサービスによって手続きは異なるものです。
前述の「当事者署名型」では、各契約者が自ら電子証明書を取得して署名を行う必要があり、準備や設定に時間のかかる点が課題に挙げられます。
初めて電子契約を利用する顧客にとっては、本人確認や操作手順がわかりづらく、負担に感じることもあるでしょう。特に、マイナンバーカードを使った厳格な本人確認や、金融機関・行政手続きで書類提出が必要な場合は、手続きが煩雑になりがちです。
スムーズな運用のためには、事前に本人確認や署名の流れをわかりやすく案内し、サポート体制を整えることが大切です。
契約関係者の事前承諾が必要
電子契約は一方的に進められず、すべての契約当事者から事前承諾を得る必要があります。
取引先や顧客の中には、電子契約に馴染みがなかったり、セキュリティ面での不安を感じたり、紙での契約を希望するケースも少なくありません。
そのため、相手方の意向を尊重し、紙の契約と電子契約のどちらかを選択できるようにするのが望ましいでしょう。
不動産仲介の電子契約に関するよくある質問
ここでは、不動産仲介の電子契約に関するよくある質問を紹介します。
- Q1. 電子契約に印紙税はかかりますか?
- Q2. 相手方が電子契約サービスを導入していなくても契約できますか?
- Q3. 電子契約のデータはどのように保管すればよいですか?
Q1. 電子契約に印紙税はかかりますか?
電子契約に印紙税はかかりません。印紙税法では、課税対象は「文書」と定められており、電子データはこれに該当しないためです。
高額な取引になるほど印紙税額も大きくなるため、電子契約によるコスト削減効果は非常に高くなります。
Q2. 相手方が電子契約サービスを導入していなくても契約できますか?
事業者署名型(立会人型)の電子契約サービスでは、契約書を送信する側(自社)がアカウントを持っていれば、受信側(相手方)はアカウント登録不要で契約できます。
メールなどで送られてきたURLから契約書を開き、内容を確認して署名するだけで手続き完了です。
相手に新たなアカウント作成やシステム導入を求める必要がなく、負担をかけずに電子契約を進められるでしょう。
Q3. 電子契約のデータはどのように保管すればよいですか?
電子帳簿保存法に基づき、締結した電子契約のデータは改変されていないと証明できる状態かつ検索可能な形で保存する必要があります。
多くの電子契約サービスには、これらの法的要件を満たした保管機能が備わっています。自社でサーバーを管理するのではなく、セキュリティレベルの高いクラウドサービス上で保管するのが一般的です。
電子契約システムの導入で不動産仲介の効率化を図ろう
電子契約は、契約スピードの向上やコスト削減、セキュリティ強化など多くのメリットがあり、不動産仲介業務の効率化に欠かせないツールです。
導入時にはITリテラシーや費用の課題もありますが、それを上回る効果が期待できます。自社の課題を整理し、最適なシステムを選べば、業務効率と顧客満足度の向上を同時に実現できるでしょう。
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